患者さんの中には自分が服用するお薬について詳細に知っておきたいという方もおられる。

そこでバイアグラの歴史について書きたいと思う

話しのタネにでもなれば幸いである。

バイアグラの歴史は、その主成分たるシルデナフィルの歴史と言えよう。

国内正規品 ファイザー株式会社のバイアグラ錠50mg

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シルデナフィルは1982年に血管障害の治療薬としてイギリスにあるファイザー社の研究室で開発が始まった。

 

それまでの血管障害治療、こと狭心症の治療薬としては長くニトログリセリンなどの硝酸塩系薬剤が主流であり、ファイザーの研究者たちは新たな血管拡張作用を起こせる成分を模索していた。

ニトログリセリンは体内に入ると加水分解されて硝酸となり、硝酸から還元されて一酸化窒素( NO )なる。 それがグアニリルシクラーゼを活性化することで環状グアノシン一リン酸( cGMP )を増産し、細胞内のカルシウム濃度を低下させるので、血管平滑筋が弛緩して血管拡張が起きる。

専門用語が多くてウンザルするやもしれないが、この複雑さがニトログリセリン製剤の弱みでもある。

ニトログリセリンの作用を箇条書きで整理すると

ニトログリセリンの分子構造
  1. ニトログリセリンが体内で硝酸となる
  2. 硝酸が還元されるとNOになる
  3. NOがグアニリルシクラーゼを活性化
  4. グアニリルシクラーゼがcGMPを増産
  5. cGMPにより細胞内のカルシウム濃度が低下
  6. カルシウム濃度低下によって血管平滑筋が弛緩
  7. 結果的に血管が拡張

以上のように7段階を経て血管拡張の効果となる。

ファイザーが着目したのは4.のcGMPであった。 狭心症をはじめとする血管障害の原因は、何らかの理由でcGMPを健康な人よりも多く分解してしまうことにある。

そしてcGMPを分解させてしまう酵素を発見した。 それがcGMP分解酵素、のちに5型ホスホジエステラーゼ (PDE-5)と名付けられる酵素である。

ファイザーが目指したのはPDE-5の酵素活性を阻害する成分の創造。

それが実現できれば作用は3段階のシンプルなものになる

シルデナフィルの分子構造
  1. 新成分によりPDE-5の酵素活性が阻害される
  2. PDE-5の酵素活性が低くなることでcGMPの分解が遅れる
  3. cGMPの分解が遅れれば必然的に血管拡張が促される

自然界に存在しない成分の創造には莫大な時間とコストがかかる。 しかしながら世界売上No.1企業の持つ優秀な人材と資金によりファイザーはこの新成分の創造に成功したのだ。

この新成分こそシルデナフィルなのである。

ここからの道程も非常に厳しいものであったことは想像に優しい。

新成分の検証のため、まずは最小の哺乳類であるマウスを使った生体実験を繰り返し、一回り大きいラット実験を繰り返し、そして人間に最も近い類人猿での生物実験を繰り返した。

着手から十数年。 ようやく成分の検証と安全性の確認が取れ、臨床試験に入った時に問題が起きた。 第1相臨床試験において、狭心症に対する治療効果に期待ほどの成果が上がらなかったのだ。

これまでにかかった時間とコストを鑑みれば、試験の中止は断腸の思いであったであろう。 しかしファイザーは中止を決めた。 しかし、ここで不思議な事が起こる。

通常、臨床試験の中止が意味するものは試験対象の医薬品に欠陥があったということにほかならない。 本来であれば臨床試験の被験者たちは欠陥品を当然のごとく返却するものだ。

にも関わらず、多くの被験者たちは残りのお薬の返還を拒んだ。 その理由を問いただしたところ、ある予想だにしていなかった答えが返ってきた。

「実は、この試験薬を飲むと夜の調子がすこぶる良いんですよ」

狭心症のお薬としての効果は期待はずれであったが、副作用に安定した勃起不全の改善が現れたというわけだ。

この時点で16年、200億円以上のコストがかかったシルデナフィルをお蔵入りにするのはあまりに惜しい。 そこで副作用であった勃起不全をメインにした臨床試験を再度申請したのである。

すでに狭心症の治療薬として第1相臨床試験は終了していたので、その後の試験はスムーズに運んだ。

そして1998年にシルデナフィルは世界初の勃起不全治療薬「バイアグラ」として世に登場したのである

そしてシルデナフィルの血管拡張作用は更に研究を進められ、バイアグラ発売の10年後に当たる2008年には肺動脈性肺高血圧症治療薬「レバチオ」としても発売され、新生児の心室中隔欠損症や動脈管開存症をはじめ、開心術中・開心術後、急性肺傷害などの医療現場で多くの命を救っている。

バイアグラのページ

バイアグラの添付文書